令和の時代となり初めての劇場公演となった「少女地獄・何んでも無い」。
火曜日のゲキジョウ参加作品ということもあり、短い時間の公演であったが、うちらしいアンニュイな世界観を描けたように思う。

さて、ご来場いただいたお客様の声として一番多かったのは、姫草ユリ子は死んだのか?ということである。
そりゃそうだと思う。それは、あえてそのような結末にしたからである。
なぜなら、この物語の原作者は、明治~昭和初期に活躍した探偵小説の夢野久作だ。物語そのものが謎解きの対象となっているのである。

それでは、答え合わせでもないが、姫草ユリ子はどうなったのか推理してみよう。
状況証拠は次のとおりである。

・姫草ユリ子と名乗る女が臼木病院で隆鼻術を受けた。
・姫草ユリ子は看護婦と名乗り、臼木病院で働き始めた。
・臼木病院のモルヒネの数が合わなくなった。
・姫草ユリ子がモルヒネを盗んだのを見たと古株の看護婦が証言している。
・姫草ユリ子はモルヒネの盗みを否定。古株の看護婦の嫉妬だと主張。
・姫草ユリ子は臼木病院から失踪する。
・姫草ユリ子は遺書を残して自殺する。
・姫草ユリ子の遺体はすでに火葬され、遺骨は警察が保管している。

これを見る限り、モルヒネを盗んだ悪女・姫草ユリ子が逃げ切れず、自ら命を絶ったように思われる。

しかし問題はそんなに単純ではない。
姫草ユリ子は遺書で、臼木院長および前の勤務先の医長に弄ばれていたと告白し、さらにモルヒネ横流しの罪を彼らに押し付けられたと主張しているのである。さらに、二人の奥様に申し訳ないから命を絶つなどとしおらしい事を語っている。この自らの命を懸けた遺書の内容が正しければ、姫草ユリ子はかわいそうな悲劇のヒロインとなる。

さらに、本当に姫草ユリ子が悪女ならば自ら命を絶つ必要はない。ひょこりとまた違う街に現れて、隆鼻術でも受けて新しい自分の経歴を作って暮らせばいいはずだ。がっちりとモルヒネ横流しで儲けたはずだろうから。

しかしながら、姫草ユリ子が稀代の悪女ならば、自分の身代わりの死体ぐらい用意するかもしれない。蛇の道はヘビである。そうしておけば、今後はまったく別人として生活することが出来るからだ。稀代の悪女にとって、これほど好都合なことはないだろう。

結局のところ、謎はますます深まるばかりである。。。

果たして真理はどこにあるのか?
「姫草ユリ子とはいったい何だったのか?」という問い掛けと共に観劇いただいたお客様に預けることにしよう。


平本たかゆき